既存塗膜の品質確認方法について
既存塗膜の品質(劣化度合)を評価する目的で行われる目視調査は、塗膜表層部の粉化(チョーキング)度合、即ち、光沢保持状態によって判断する最も理解しやすい方法ということができます。しかし、この方法では、判定結果を数値化して定量的に示すことが難しく、評価方法としては客観性に欠ける面があることは否めません。
こうしたことから、既存塗膜の品質を判定する客観的データとして塗膜の付着強度が用いられるようになっており、それに伴い塗膜の付着力試験が行われる機会が増えています。
今回は、この既存塗膜の品質評価における塗膜付着力試験の留意点等について私なりにとりまとめさせて頂きました。
◇◆ 外壁等の塗膜付着力試験について ◆◇
1) 塗膜付着力試験とは
- 目的:現状塗膜(複合塗膜及び改修施工後の塗膜を含む)の付着強度を測定し、塗膜の劣化状態(付着状態、造膜状態)の指標とする。
- 劣化状態の判定:通常に活膜塗膜として評価される要求付着強度(層としての塗膜内部強度-凝集力強度を含む)はJIS A 6909(建築用仕上塗材)の「付着強さ」の品質規定に準ずることが多い。(表1、2参照)
2)測定個所の設定
- まず塗膜の劣化損傷状態を目視及び指触等で大まかに把握し、この結果に基づいて標準的な劣化損傷状態にあると判定できる面を設定する。
- 標準劣化損傷面が目視及び指触診断の段階で活膜と推測できる場合、この標準劣化面に対し基本的に、最低3箇所以上の測定個所を設定する。(東西南北それぞれの面方位に対し、劣化損傷にバラつく恐れがないと考えられる場合は、各面方位それぞれに3箇所以上の測定個所を設定する必要はないものと考え得る)
- 付着強度が低下する要因を特定または容易に推測でき、かつ、試験によって得られたデータからも検証し得ると推測できる個所(試験面)に対しては測定個所を別途設定する必要がある―標準劣化損傷面以外の検証のための設定。
付属強度測定の手順
3)測定結果の考察
- 付着強度測定値、その分布状態及び破断状態(破断面の状態及びその面積比率で評価)を考察し、現状塗膜の付着状態(の分布)を推定、塗装改修仕様(塗膜剥離処方箋)を検討する指標とする。この場合、以下の点が肝要である。
- 塗膜に要求される付着強度はJIS A 6909の品質規定に準ずるものとする。また、この場合、塗膜凝集力付着強度の考え方をも適用するものとする。
- 測定範囲の塗膜に付着強度が脆弱(要求付着強度未満)な部分が認められた場合、その要因が特定または容易に推測できる限り、活膜測定値のデータ信頼度を低く評価する(バラツキが大きいとする)根拠にはならない。
- (2)とは逆に、塗膜の付着強度に脆弱部分が認められ、かつ、活膜状態にある塗膜と分別し得る劣化損傷要因が特定または推測し難い場合は、活膜測定値のデータ信頼度を低くする根拠となる。
- 1. により塗膜剥離処方箋及び塗層改修仕様または施工塗膜の品質を判断―決定する。
なお、塗膜剥離の処方箋・判定基準表を表3に示す。
〈参考〉電磁誘導式膜厚計による膜厚測定の注意点
近年、電磁誘導式の膜厚測定器(膜厚計)が普及し、使用される機会が増えています。その原理は、交流電磁石を鉄などの磁性金属に接近させるときに発生するコイル両端部の電圧変化を読み取り、距離(膜厚)に換算するというもので、測定対象は磁性金属上の非磁性被膜に限られるとともに、次のような注意点があります。
(1)出隅、入隅、端部(エッジ)など、塗膜の塗布状態が悪くなる恐れのある部位は測定が困難(厳密には、塗布状態が均一な部位以外は測定不可)。
(2)(当然ながら)改修工事における膜厚測定は、改修塗膜施工前の膜厚を測定しておくこと。
表3.国交省・改修仕様書における下地調整レベルに対する塗膜ケレン判定基準
種類 | 塗膜付着力試験による 塗膜ケレン種別の判定 |
劣化損傷推定範囲 | 除去塗膜 | ケレン作業後の 査定・確認 |
---|---|---|---|---|
RC種 | 基本的に要求付着強度以上にあること。仮に要求強度未満箇所が部分的に認められても、特定(推測)出来る明確な強度低下要因が存在する場合はこの限りではない。 | 塗膜自体が主体。 | 汚染物質・付着物(チョーキング層を含む)を除去する。 | 指触、目視により表層部分に汚染物質・付着物がないことを確認する。 |
RB種 | 概ね要求付着強度以上にあることが認められ、塗膜自体は基本的に活膜状態にあるが、明白な要因に基づかない脆弱層が実際には分布しており、この範囲におけるケレン除去が要求される。 | 塗膜内部まで劣化損傷が進行している。 | 劣化損傷し、脆弱状態・脆弱強度に至っている塗膜(下地を含む)を除去する。 | 脆弱塗膜を全てケレン除去する。塗膜付着力試験などにより、残存塗膜が活膜状態にあることを査定・確認する。 |
RA種 | ほとんどが要求付着強度未満か、現状塗膜の付着性または下地強度の信頼性が低く、これらを残存させることにリスクが大きいと考察される場合。 | 塗膜自体だけではなく、下地が劣化損傷している場合、または塗膜自体の密着性が基本的に期待できない場合。 但し、塗膜自体が活膜にあっても、施主等の要望により、理屈抜きに剥離するケースも含まれる。 |
塗膜は脆弱膜・活膜に関わりなく、全面ケレン除去する。また、下地の脆弱層もケレン除去する。 | 残存状態を付着力試験等で査定・確認する。 |
執筆者
技術委員会検査確認方法分科会 リーダー 三條場信幸
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